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札幌高等裁判所 昭和54年(ラ)35号 決定

抗告人 池田清

相手方 永田順子

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  本件記載によると、次の事実が認められる。

(一)  札幌家庭裁判所昭和五三年(家イ)第一七四一号離婚等請求調停事件(以下「本件調停事件」という。)について、昭和五四年五月七日に成立した調停(以下「本件調停」という。)の調書の調停条項には、(1)第一項として、申立人(本件抗告人)と相手方(本件相手方)とは離婚する、(2)第二項として、当事者間の長男清一(昭和五〇年一月八日生)の親権者を申立人と定める、(3)第三項として、申立人は相手方に対し、清一の養育料として昭和五四年五月から清一が成年に達するまでの間、毎月同項所定の金員を支払う旨の各記載がなされているが、右の第二項の清一の親権者についての定めと別に、その監護をすべき者を定めた条項は記載されていない。

(二)  抗告人と相手方とは、昭和五三年一〇月から別居していたものであるが、両者間の長男清一は、右別居の当初から本件調停成立当時まで引続いて、相手方が手元において、その監護を行つていた。

(三)  本件調停は、昭和五三年一二月五日に抗告人が、相手方と離婚する、長男清一の親権者を抗告人とする旨の調停を求めて、本件調停事件の申立をして以来、四回の調停期日を経て、第五回の調停期日に成立したもので、昭和五四年三月一六日の第三回調停期日までは、抗告人、相手方の双方が、離婚する場合には、自己が清一の親権者となることを望む意向を表示していたが、同年四月一九日の第四回調停期日において、抗告人が譲歩して、清一の親権者を相手方とすることに同意する意向を表示したのに対して、相手方は、清一の親権者を相手方とすることを求める意向を変えていなかつた。

右のように認められる。

2  未成年の子に対する親権は、当該未成年者の監護をする権利及び義務を含むものである(民法第八二〇条)から、離婚する場合に、未成年の子の親権者となる者が、当該未成年者の監護をなすべき者となる場合には、親権者となる者を定めるほかに、明示的に、監護をなすべき者を定める必要がないけれども、親権者とならない者が、監護をなすべき者となる場合には、親権者となる者を定めるほかに、明示的に、監護をなすべき者を定めなければならないと解される。ところで、前記1(一)(3)認定の、本件調停調書の調停条項第三項の記載内容及び前記1(二)認定事実からすれば、本件調停において、抗告人と相手方との離婚後は、相手方が両者間の長男清一の監護を行うことが合意されたものと認められる。したがつて、もし、前記1(一)(2)の本件調停調書の調停条項第二項の記載が、誤記でないとすると、本件調停においては、清一の親権者とならない相手方を、清一の監護をなすべき者と定める明示的合意をすることもしくは右の合意の調書への記載を脱漏したことになる。しかしながら、清一(本件調停成立当時満四歳四月)のような幼児について、その親権者と監護を行う者とを分離することは、今程特段の事情がない限り行われないことであると考えられるが、右の特段の事情があることを窺うに足りる資料は何もないこと及び前記1(三)認定事実を考え合わせると、本件調停において、清一の親権者を相手方と定める合意が成立したにもかかわらず、調書の調停条項の記載が、前記1(一)(2)のように誤記されたものと考える方が、前記の脱漏があつたものと考えるよりも、はるかに合理的であるということができ、したがつて、本件調停調書の調停条項第二項は、清一の親権者を相手方と定める旨記載すべきものを、前記1(一)(2)のように誤記したものと認めることができる。

右のとおりで、原裁判所が本件調停調書の調停条項第二項についてなした更正審判は相当であり、本件抗告は理由がないから、家事審判法第七条、非訟事件手続法第二五条、民事訴訟法第四一四条、第三八四条一項より、本件抗告を棄却することとし、抗告費用の負担につき家事審判法第七条、非訟事件手続法第二五条、民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 輪湖公寛 裁判官 寺井忠 矢崎秀一)

抗告理由書〈省略〉

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